お嬢様のための議論講座 Part.2:『レスバで負けないための10箇条』を題材に

お嬢様口調で議論講座を書くのは面白いですわ。

わたくしが飽きるまでシリーズ化してやっていきますわ。

 

どういう星のめぐり合わせか、昨日わたくしが『ネット議論お嬢様のためのランク別「議論力」向上法』を公開したのとほとんど同時(同日)に、別のお嬢様が次の記事を公開しておりましたわ。

 

note.com

テーマは似ているようで違うのですけれど、興味深く拝読いたしましたわ!

 

違いとしては、こちらのお嬢様は『インターネットにおける護身術として、レスバで負けないための10か条を紹介します。』とあります通り、どちらかというと議論に対して受動的な姿勢の方に向けて書かれていますわ。加えて、あくまでも「負けないこと」が重視されていて、「勝つこと」という積極的姿勢とは異なるのもポイントですわね。

 

そうした違いを意識した上で、おおむね首肯しながら読みましたわ。ですけれども、「それでは護身はできないのではなくって?」「その『甘え』を許さない厳しいお嬢様も多くいらっしゃるのよ。」と思った箇所もいくつかございましたわ。自分の意見を反論から防衛するのはとても大事なこと――議論の「本質」といっていい部分――ですから、今回はその点を詳しく書いてみますわ。

 

ちなみに、けっこう批判的な調子で書きますけれど、前記のようにそもそもテーマの異なる記事ですから、筆者さま(ジャベリューン様)に他意はございませんわ。

 

「断言しない」に防衛力はございませんわ!

ジャベリューンお嬢様は次のように述べておりますわ。

 

地球温暖化の原因はCO2である」と述べると「それは推測に過ぎない」という批判を受けます。

しかし、「地球温暖化の原因はCO2だと考えられている」と述べれば、そのような批判を受けずに済みます。

(中略)

断言は致命的な隙となります。あくまで曖昧に、引用的に、責任を回避して主張するよう心がけましょう。

 

申し訳ございませんけれど、その程度の文末表現の工夫で逃げられるのは、よほど相手がクソザコお嬢様でいらっしゃった場合だけですわ。

 

ここでは仮に「~だと考えられている。」を文字通りに受け取って差し上げましょう。でも、あなたが数ある説の中からそれを選択し、引用した理由は問われますわ。

たとえばこうですわ。

 

「なぜ他の説ではなく、特にその説を引用したのか? その説が正しいと思ったから引用したのではないのか? それとも間違った説だと考えつつ否定的に引用したのか? どちらであるか? またどちらであるにせよ、その判断の根拠は何か?」

 

リアルに、これくらいの弾は飛んできましてよ!

特にお会社での会議や、お学会発表だったら100%誰かに言われますわ。わたくしでも確実にお尋ねするところですわ。回答拒否する権利はありませんわ。だって、選んだのも、それを引用するを決めたのも、間違いなくあなた自身のご意思でしょう? あなたの意思決定を、あなたが説明できない道理はないはずですわ。

この質問には真正面からきちんとお答えできませんと、論者は信用されなくなりますわ。妥当性・信頼性の説明もできないような怪しい文献を紹介してしまうお嬢様ですの? それでは話し合いに参加させられませんわ。

 

あとオマケですけれど、『それは推測に過ぎない』と指摘されて何か困ることがありまして? 明日も東からお日様が昇ってくることだって、言ってみれば推測に過ぎませんわ。よって、「妥当な推測である。」ですとか、「より優れた他の推測が出されないようなら、仮にでもこの推測を採用しておくべきだ。」ですとか、いくらでも答えられますわ。もともと自然科学は推測のかたまりなのですから。

 

論点のすり替えの指摘」は時として弱いですわ

また、次のようにも述べておりますわ。

 

脱線を避けたいなら、初手で相手に「論点は〜〜で大丈夫ですか?」と確認しておきましょう。文字上だと証拠が残るため、簡単に言質が取れます。

一度論点を定めたら、絶対にズラさない・ずらさせないようにしましょう。少しでもズラされそうになったら「論点ズラしにはこたえません」でかわし続けてOKです。

 

かわし続けてOK――ではありませんわ。少なくとも必ずしもそうではありませんわ。ここは注意が必要なところですわ。

 

端的に、「新しい論点を提示したのだ。」と言われたらどうしますの? 特に「この(新しい)論点は極めて重要である。なぜなら……」とちゃんと説明できる相手だとまずいですわ。

わたくしは以前、青識亜論お嬢様と次の会話をしましたわ。論点のすり替え」問題を分かりやすく示していると思いますわ。

 

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 わたくしの発言であるレバレッジを可能な限り大きくしておくと、勝てた時には大きく勝つことができます。』は完全に真ですわ。それに対して、青識亜論お嬢様は『負けたときは……?』と返していますわ。

でも、お待ちになって? わたくしはちゃんと『勝てた時には』明確に論点を限定しておりますの。ですから、『論点をすり替えないで頂きたい!!』と申し上げましたわ。

 

とはいえ、おマヌケお嬢様は、この場合は明らかにわたくしですわ。もちろん、上の会話は分かっていてのジョークですけれど、重要性によっては、論点を追加されても変更されても文句は言えませんわ。論点のすり替えをかわせるかどうかは、場合によるんですの。

わたくしが「論点のすり替えだ!」と論争相手に指摘されましたら、「なぜ(新しい)この論点を先に扱わなければならないか?」をちゃんと説明しますわ。その後で念仏のように「論点ずらし、論点ずらし……」と唱える側が困る(議論で劣勢と判断される)ように工夫くらいはしてましてよ。実際よくあることですわ。

 

念の為、もうひとつたとえ話を致しますわ。

クラスで文化祭の出店する喫茶店について、あなたが「豪華な看板を作れば、たくさんお客さんが集められると思いますわ!」と述べたとしましょう。別のお嬢様が挙手して言いますわ。「でも、そんな看板を作る時間も予算もございませんわ。」――これを「論点のすり替え」として拒否できるかしら? 「私はあくまでもより良く集客ができる方法を提案したのであって、時間や予算のことを指摘するのは論点ずらしでしてよ!」と拒否できまして?

拒否してもいいですけれど、多分みんなから馬鹿だと思われますわ。明日からいじめに遭いますわね。くれぐれも夜道にはお気をつけ下さいまし。

 

中立は中立で、ふつうに理由が要りますわ

次はこちらですわ。

 

レスバは剣術と同じです。つまり後の先(カウンター)が最強の戦法なのです。
十全に正しく矛盾もない主張は、非常に困難です。しかし、ある主張のほころびを指摘するのは比較的容易です。
レスバで負けたくなければ、派手な主張は避けておきましょう。
中立的に、スタンスを決めずに立ち回れば、無駄な隙をさらさずに済みます。

 

前半部分には同意しましてよ。「最強の戦法」は言い過ぎかもしれませんけれど、ある主張への反証を基本姿勢とすることには賛成ですわ。いまこの記事でここまでやってきたのも「(カウンターで)ある主張のほころびを指摘する」行為ですわね。

 

ですが、『中立的に、スタンスを決めずに』はいただけませんわ。スタンス(立場)を決めないというのも、一つのスタンスですわ。例えば永世中立国(permanently neutral state/country)を宣言するのは、とても強いスタンスの表明ですわ。理由は当然訊かれますわ。それで他国の承認がおりないと中立になれませんわ。(これはあくまでも永世中立国の話ですけれど。)

 

また、その「中立戦法」は排中律問題(Aか非Aかのいずれかしかない問題)には使えないことも指摘しておきますわ。たとえば「死刑制度を続けて良いか?」は、実質的に「続ける」と「続けない」の2つに1つでしてよ。もちろん、「半殺し」は中立ではありませんわ。(そいつは生きてますわ!)

 

もっとも、「中立的に、スタンスを決めずに」の意は、「特に意見なし」「わからない」と答えることかもしれませんわね? けれど、それは防衛云々以前に、ゲーム盤に立ってもいませんわ。確かにゲームを始めなければゲームに負けることもありませんけれど、その場合、ありがたい教えとは言いがたいですわ。

 

 おわりに

素敵な題材がありましたから、楽しく書けましたわ。また何か思いついたらやりますわ。あと、ジェベリューン様におかれましては、一切知り合いでも何でもないのに、いきなりnote記事を引用しまくって好き放題書いてしまい申し訳ありませんでしたわ!

 

以上、私もお嬢様力の向上を目指して頑張りますわ!